3年生 平成12年2月25日

子どもの発達と遊び

 
 「遊びながら学ぶ」とは大人にとっても、子どもにとってももっとも望ましい学習形態でしょう。しかし、それは永遠のテーマなのです。多くの教師が遊びの要素を取り入れて学習させることの大切さを説いていますしかし、私の知る限りではどうも経験的な域を出ていないような気がするのです。
 また、あそびなのか、いじめなのか、判断に苦しむ行動がよく見られます。もちろん親の立場になれば「いじめではないか」ということが心配になります。しかし、たとえいじめだったにせよ「いじめ」と認定されることで問題が解決されるわけではありません。その行為が子どもの発達の過程でどんな位置にあり、今後の糧になっていくのか、それとも大変な問題になっていくのかが大切であるといえましょう。
 いったい遊びについて学説はどうなっているのでしょうか。諸子百家がこの問題について論じているそうですが私にはよく分かりません。そこで若干の聞きかじり、孫引きで失礼ですが話をさせていただきます。お子さんが生まれたころから現在までの遊びを思い出しながら一緒に考えてください。
【ピアジェの分類】(遊びの心理学 大伴 茂訳 黎明書房)
1.機能的あそび、あるいは実践的あそび(出生〜2歳ごろ)
 手を動かしたり頭を動かしたり、目的のない行動となったときあそびとなる。
 目に付く物につながりなく次々と働きかけていく。
2.象徴的あそび (2歳〜7歳)
 1人あそびが基本、二人いてもやっていることは別々なことが多い。
 @象徴的パターン 自分が、いつも寝ている布団を見ると寝るふりをする
 Aプロジェクション 自分が寝る遊びをすると人形などへも寝る真似をさせる。
 B同化      単独の事物を他の事物に同化させる。(ごっこあそびか?)
 C組み合わせ   元々のキャラクターを別のキャラクターへ置き換えるなど、組         み合わせのあそびをする。(ごっこあそびの進化?)
3.ルールのあるあそび(7,8歳〜11,12歳)
 二人以上の人間がいる。
 二またに分かれた木の枝を牛の角に見立てて遊んでいた子どもの例が出されています。はじめはそれをただ牛に見立てていただけだったのが、同じように遊んでいた子どもと牛同士の戦いをするようになりました。これがルールあるあそびへの移行とされています。
【三年生としての特徴を考える】
 ピアジェのもう一つの基本的な概念に自己中心性があります。自己中心性とは自分が中心であるということとともに自分以外の存在があまり分からないということがあります。
 自己中心的な段階では、自分がすべてですから他からの関わりがどうも自分に災いとなっているように感じてしまいます。それが、ルールある遊びへと変化しない要素でもあります。例えばボールを投げたときそれをキャッチした子がいたとします。キャッチした子はキャッチボールをしたかったのかもしれません。しかし、とられた子は「ボールを投げて遊んでいたら誰かが僕のボールをとった。」と認識するといったようなことです。
 1学期にはこうした苦情が随分寄せられました。ちょうど2つの段階の狭間にいる児童の特徴といえましょう。
 
【児童の放課の過ごし方】
 1年間折に触れ、子どもが放課にどんな遊びをしているか、観察してきました。すると結構おもしろい結果が出てきました。次にその一部を紹介します。
児童1    ○は3年生の子ども1人を表す。
時期     場所 近くにいた児童 やっていたこと
5月 土間を出たところの土の場所 ○、○、4年生 ボールで遊んだ。
10 月 バックネット前 4年生 手打ちの野球
11月 バスケットゴール前 6年3人、○ バスケット
12月 バスケットゴール前 6年、○,○ バスケット
2月 バスケットゴール前 ○、○ 、○ バスケット
※ 一人あそびから2学期にルールあるあそびへと移行しています。そして関わっている児童が4年、6年、3年生へと変わってきています。2学期の様子を見ていると同学年の児童と遊べないのか、という不安があるかもしれませんが、一人遊びよりもルールのある遊びをしたかった、と考えるのが妥当でしょう。
児童2
時期     場所 近くにいた児童 やっていたこと
5月 砂場 砂遊び
10月 廊下 ○○○○○○ あそび
11月 図書室 ○○ あそび
12月 図書室 ○○ あそび
2月 教室 ○○ 絵を描いていた
※ 一人あそびの段階、たまたま近くにいた人があそび相手
 5月に砂場で遊んでいる子どもは結構いますが、自分以外の存在に案外気づいていないのが特徴です。
児童3
時期     場所 近くにいた児童 やっていたこと
5月 遊具 一人 うんてい
10月
 
サッカーゴール前
 
○○○○○○○○ ボール投げ
 
11月
 
サッカーゴール前
 
○○○○○○○○○○○○○ ボール投げ
 
12月
 
サッカーゴール前
 
○○○○○○○○○○○○○ ボール投げ
 
2月 運動場 ○○○○○ ドッジボール
※本学級の最も一般的な子どもです。完全な一人遊びから、集団遊びのような一人遊び(ボール投げ)、ルールあるあそびへの進化が見られます。相手が3年生ばかりであることが特徴です。
児童4
時期     場所 近くにいた児童 やっていたこと
5月 鉄棒 ○○ 鉄棒 おしゃべり
10月 鉄棒 ○○○○ 鉄棒
11月 鉄棒 鉄棒
12月 鉄棒 鉄棒
2月 教室 ○○○ トランプ
※ 人数の多少はあるものの鉄棒は基本的に一人あそびといえます。トランプはル ールあるあそびです。
児童5
時期     場所 近くにいた児童 やっていたこと
5月 遊具 ○○○ おにごっこ
10月 廊下 ○○○○○○○ おいかっけっこ
11月 運動場 ○○ おしゃべり
12月 鉄棒 ○○○ 鉄棒
2月 教室 ○○○ トランプ
※ ルールある遊びをしているように見えますが特定の児童同士で遊んでいるの です。小さなグループが成立している例でもあります。ある意味では一人遊びと 拡大解釈できなくもありません。
 
児童6
時期     場所 近くにいた児童 やっていたこと
5月 遊具 ○○○ お店やさんごっこ
10月 教室 お絵かき
11月 図書室 ○○ 読書
12月 図書室 ○○ 読書
2月 教室 ○○○○ トランプ
5月は典型的な象徴的なあそびの段階であることが分かります。また、5月以外は、ルールあるあそびの段階のように見えますが、12月までは、基本的に一人あそびであると考えられます。
【3年1組の分析】
 @ 1学期は典型的な象徴的な遊びの段階である。
 A 一般的に2学期までは一人遊びの段階である。
 B 3学期になると集団で遊べる遊びに興味を持っている。
 このように遊びを見ても子どもの1年間の成長の大きさに驚かされます。それとともに発達段階は子どもによってさまざまであることも分かります。このような段階の子どもがいれば当然いろいろな衝突が起こります。自分が子どもだったころの経験から考えて結論を出してしまうのではなく、ほかにもいろいろな段階の子どもがいることを考慮して我が子の行動を理解していくことが大切ではないでしょうか。
 「大丈夫です。大きくなればなおりますよ。」という言葉はある意味では真実でしょうが、子どもの発達の特徴をよく捉えた上での発言なのかどうかをよく見極める必要があるでしょう。経験からいえることは大切なことではありますが科学的とはいえません。
 ところで「でも、幼稚園では、みんなでよくゲームをしているではありませんか。あれはルールある遊びではないのですか。」と質問が出るかもしれません。もちろん学校でもゲームはします。しかし、子どもの立場に立って考えてみるとそれは「遊び」ではないのかもしれません。つまり、楽しんでいる子がたくさんいても自分と他人の関係を考えているとは言い切れないからです。集団ゲームは集団のよさを教える場であることを知っておくことが大切で、完全な「遊び」ではないのです。
」 結論的にいえることは、よく観察することは、誤った指導をするよりも遙かに教育的だということです。ご家庭でもそろそろ手が抜ける3年生や4年生のこの時期に、じっくり子どもの観察をしてみませんか。子どもの成長ぶりの大きさ驚かされると思います。
 ただし、これはあくまでも一般論です。くれぐれもお子さんに機械的に当てはめないようにご注意ください。

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